テレワーク時代の人事労務問題と調査会社の役割

テレワーク

新型コロナウイルスの感染拡大によって、テレワークが一気に広がりました。

柔軟な働き方を促進するものとして、テレワークは働き方改革における目玉の一つに位置付けられています。

先日閉会式を迎えた「東京オリンピック」、そして引き続き開催の「パラリンピック」を見据えて都内の大手企業では昨年の感染拡大が本格化する以前からテレワークの本格的な導入準備をしているところも多くみられました。五輪・パラリンピック開催期間中の交通混雑を緩和するためにも、国や東京都は導入を強く求めてきました。

感染リスクを回避する危機対応として大企業を先頭にテレワークへのシフトが一斉に進み、従業員の出社を原則禁止にするなど、半ば強制的にテレワークを体験したビジネスパーソンも多いことでしょう。

テレワークによって浮かび上がる課題と問題点

しかし以下のようなデータを見ると、テレワークが本当に普及したとは言えない部分もあるようです。

国土交通省による「テレワーク人口実態調査」では今年度調査におけるテレワーク実施者の割合は19.7%と昨年度の9.8%に比べ倍増。4月~5月の緊急事態宣言中は首都圏では31.4%と高い一方、地方都市圏では13.6%とにとどまりました。

このテレワークの最も大きな問題点として挙げられるのが、情報漏洩のリスクです。
企業としては機密情報が漏洩しないようにセキュリティ対策を徹底すると共に、会社と社員の信頼関係の崩壊により情報漏洩が発生しないように何よりも人を大事にする経営方針や企業風土を構築・維持することが重要です。

またテレワークは対面でのコミュニケーション量が減り、業務プロセスが見えにくいので評価が難しいという問題も抱えています。欧米の会社は職務給を基本にしているので、働く場所に関係なく職務に対する成果を評価すれば良いのですが、日本の場合はそれが難しい環境にあります。

またテレワークに対する評価基準も無い会社が多く、その結果、テレワークを実施したことで不利な評価に作用するケースも少なくありません。今後テレワークが普及し、より多くの人がテレワークを行うことを考慮すると、テレワークに対する評価基準を設けることが重要であり、評価を行う評価者が客観的な基準により公正な評価ができるよう評価基準を理解・熟知させるための教育も行うことも必要でしょう。

更にテレワーク最大の問題の1つが長時間労働に繋がりやすいことです。自分は家でサボっていないことを証明することを、また会社にいた時と同じ成果を出すことを意識しすぎると、長時間労働や深夜労働を頻繁に行うことになっているようです。

そのまま放置すると過労死等の問題につながる恐れすらあります。従って、会社としては、働いている状況を可視化するための工夫が必要です。

一部の会社では始業時間と就業時間をメールで上司に報告する、クラウド型の勤怠管理サービスを利用して打刻時間を把握する、メールやメッセージの送信時間を制限するなどの対策を講じているものの、「隠れ残業」や「隠れサボり」まで把握することは不可能です。

時間の使い方に対する社内教育を管理職及び従業員の双方に徹底するなど、コンプライアンス違反を防止するための対策を綿密に行う必要があります。

こうしたテレワーク推進におけるさまざまな課題が、私たちのような調査業へも変化をもたらしています。長年、定番とされてきた不貞調査以上に増えてきたのが、こうした「情報漏洩問題」「評価の問題」「従業員に対する管理の問題」といった人事労務調査の依頼です。

テレワーク時代のリストラ

元々コロナ禍に入る前から一定数こうした調査依頼はありましたが、ここ最近は特にコロナで業績不振にあえぐ企業は経費削減や業態変更等を検討し、何とかして生き残りをかけなければなりません。

新たなチャレンジをしながらも、当然、オフィスの家賃や人件費といった重たいと考えられる経費部分を洗い出し、削減方向へとシフトチェンジ・スリムアップ化を図る企業も少なくありません。

しかしながら重たいからと言って次々に人材を切る訳にはいきません。たとえ問題がありそうな社員でも「解雇」をすることは企業にとってはハードルが高く、簡単ではありません。

「働かない社員」ならまだ良いのですが、最悪なケースでは「不正」「背任・横領行為」が疑われる場合においても同様のことが言えます。

のちに「不当解雇ではないのか?」とトラブルにならないためにも、顧問弁護士などに相談しながら慎重に、できれば自ら辞めていただく「依願退職」という選択肢をリストラ対象者に選んでもらえることが企業・経営側にとっては理想です。

人事労務調査はこうした企業の理想を実現するために、経営陣や人事部などからの依頼が殆どで、問題社員をスムーズにリストラするための「下準備」「理由固め」的な要素が高く、また「背任・横領行為」に対しては被害特定を目的とした調査依頼となる場合が多いのです。

働かないおじさん社員の実態

暇なサラリーマン
私がこれまでに携わった人事労務調査の中には、おどろくべき実態を目の当たりにした調査もありました。ここで1つご紹介します。

都内某社のリクルート等を担当しているベテラン社員A氏の件です。同社の人事部からの依頼は、このA氏自身が申告する外出先は虚偽の可能性が高く、実際行っていないことが疑われるとのことで、調査により行動を監視・実態を把握することとなったのです。

同社のオフィス付近で張込を開始すると、A氏は通常通りに出勤したことを確認。その後、朝のミーティングを終えたころ、慌ただしく営業に出かける多くの若手社員たちの中に、比較的ゆったりとした足取りでオフィスから出るA氏を確認しました。本日のA 氏の外出先は某大学です。新卒採用者を募るために、企業説明会を実施するのが本日の予定のはずでした。

最寄りの駅まで歩くと、本日の外出先とは全く反対方向の電車に乗車。10分ほどの駅で下車すると、駅改札を出て目の前の牛丼チェーンに入りました。オフィスを出てわずか30分ほどしか経過していない午前10時半ころのことです。

「まずは腹ごしらえか、、」といくら外回りの仕事とはいえ、あまりのマイペースぶりに苦笑いしてしまいました。20分ほどで同店を出ると再び駅改札に入り、今度は地下鉄に乗車。

5分ほどで下車すると、大通りから少し入った閑静な住宅街へと向かって行きました。駅から5~6分歩くと、とあるアパートの階段を上がり、2階部分の1室に入るのを確認。その後、同アパートから出たのは午後15時を過ぎた頃でした。

帰社するわけでもなく今度は都内を離れ、隣県へ移動。途中、パチンコ店でパチンコに興じ、予定とは異なる立寄先に小一時間滞在、再び電車移動し昼を過ごしたアパートに戻ったのが終電間際の時間でした。

結局この日、A氏は申告していた某大学に行くことも無ければ、職務であるリクルート活動をする姿も見ることはないまま調査を終了しましたが、実はこのアパートはA氏の自宅ではないのです。

勤務先に申告している家族と共に住むA氏の自宅は、オフィスまで所要1.5時間ほどの隣県にあるのです。

これは推測になりますが、勤務先に申告している「自宅から勤務先の交通費」より、少し又はかなり安いアパートを仮住まいとして借り、浮いた額は私的利用している可能性も考えられます。そうなるとこれも立派な「不正」「横領行為」に該当するのです。

この日の時点で「横領」までもが決定づけられたわけではないのですが、予定の外出先に行っていないことは明らかであり、その他の素行不良を鑑みれば、人事部としてはA氏から事情を聴けば自ら「退職」を願い出るであろう十分な理由は揃ったのでした。

結果として、この件の報告を終えたのち、しばらく経ってからA氏が同社を「退職」した旨を私たちも聞くこととなりました。

新時代にむけて

新時代に向けて
前述の事例以外にも、ご依頼の中には取締役クラスの重役の素行不良や不正等の実態を明らかにしたケースも少なくありません。このクラスはITに疎い人もおり、会社から支給されている端末によって社に居場所が把握されていることにも気付けずに、勤務時間内に働いていないということが自分以外の社員の多くに知られているということもあるのです。
働かないおじさん社員にとっては恐ろしいリストラ新時代が到来したと言えるかもしれません。

テレワークが普及してからは、こうした数々の事例以上に「社員の実態が掴みにくく管理が難しくなっている」と頭を抱える経営陣や人事担当者が増えています。問題社員に悩む人事担当者はぜひとも自社の顧問弁護士をはじめ、当組合のような専門機関にも同時に相談することをお勧めしたいとおもいます。

コロナウイルスの感染拡大により、大きな変革を求められているのは私たち調査業も例外ではありません。これまでのように一定数需要のある「不貞調査」という同じ米櫃に手を伸ばしていても業界に明日はないのです。こうした新時代のさまざまな社会問題にも対応できる調査業がこれからは求められる時代が来ることでしょう。

 

東京調査業協同組合